ITストラテジスト試験に独学で一発合格した自らの経験を基に、ITストラテジスト試験に合格するための勉強の進め方や試験のコツをまとめました。
どのように勉強を進めていけばいいかわからない方でも、この記事を読めば最も効率的な勉強法を実践できるようになります。
はじめに
ITストラテジスト試験はTOEICや簿記検定などと比べるとマイナーな試験です。
例えば簿記検定3級は2021年11月の受験者がコロナ禍においても約58,000名もいるのに対し、ITストラテジスト試験の直近の受験者は5,600名と10分の1以下です。
周りにITストラテジスト試験を受けたことがある人がいなくて困った…
そのため、周囲に受験経験者がおらず試験の雰囲気や勉強法などについてアドバイスをもらうことが難しいという方も少なくないでしょう。
筆者もその一人だったので少しでも同じような境遇にある方の助けになるよう、ITストラテジスト試験を始めて受験する方に向けて、効率的な勉強法や無理なく合格するためのコツ等、参考になりそうな情報をお伝えしていきます。
1. ITストラテジスト試験の概要
ITストラテジスト試験の受験チャンスは年に1度しかありません。
次回の試験日は2022年4月17日(日)です。
試験日や試験会場、合格発表のスケジュールなどは下記のとおりです。
試験日 | 年1回 春期(4月第3日曜) |
受験手数料 | 7,500円(税込) |
試験方式 | 筆記試験 |
試験時間 | 午前Ⅰ 50分(9:30~10:20) |
午前Ⅱ 40分(10:50~11:30) | |
午後Ⅰ 90分(12:30~14:00) | |
午後Ⅱ 120分(14:30~16:30) | |
試験地 | 全国62か所 |
合格発表 | 6月下旬 |
ここ1年で受験料値上げや試験の開催時期が変更等の動きがありました。
① 試験時期変更
元々はITストラテジスト試験は秋期に試験が行われていましたが、2020年秋期に実施予定だった試験がコロナの影響で春期に延期されて以降、春期に移行しました。
② 受験料の改定
2021年秋期試験から受験手数料が5,700円から7,500円に値上げされています。
【受験手数料の改定のご案内】
— IPA(情報処理推進機構) (@IPAjp) July 16, 2021
近年の試験問題の印刷・運搬費用、会場借料等の値上がりや一部試験区分のCBT化などを踏まえ、今後も安定的に試験制度を運営する観点から #情報処理技術者試験、#情報処理安全確保支援士試験 の受験手数料が改定されました。
詳しくはこちら→https://t.co/es1xg5sRdY pic.twitter.com/PTq6pS4ypi
③ 試験会場
試験地(地域)は選択できますが、試験会場については選択(指定)できません。
試験会場は、試験日の約2週間前に発送される受験票で確認することが出来ます。
筆者がITストラテジスト試験を受験した際の試験会場は、渋谷のTKPでした。
ちなみに、その1年後に「情報処理安全確保支援士試験」を受験した時は、東急世田谷線沿いにある専門学校で、23区内といえど陸の孤島のような場所で試験会場に行くまでが結構大変でした。
④ 合格発表
合格発表は合格発表日の正午を目安にIPAのホームページで行われます。
合格者の受験番号が公開されますので、受験票を手元に用意しておいてください。
また、合格者には合格証書が簡易書留で郵送されます。
2. 試験勉強の進め方
大まかな学習の進め方ですが、午前Ⅱ試験の対策を通じてITストラテジストの基礎知識を取得することがメインとなります。
午前試験は「暗記試験」です。一般常識で答えられるような問題はほぼ出題されませんので、知識のインプットがなければ勝負になりません。
午後試験はざっくり言うと「ITストラテジストの知識を活用した国語の試験」です。
午前Ⅰ試験の過去問演習で基礎知識がある程度頭に入れば、午後試験はその応用ですから人によってはぶっつけ本番でも合格可能です。
知識ゼロからITストラテジスト試験を受験する場合の学習の比重としては午前試験対策が8割、午後Ⅰ、午後Ⅱ試験がそれぞれ1割です。
インプットとアウトプットの比率は得意不得意を考慮して調整してください。
例えば、システムは専らエンドユーザーだった私はインプットに9割以上の時間をかけました。
国語に苦手意識がある方の場合は、アウトプット(=午後試験対策)の方に時間をかける必要があります。
また、例年、過去問にない新技術が出題されます。
そのため、新しい情報技術について普段からアンテナを高くして情報収集しておくとより合格の可能性がアップします。
3. 午前Ⅰ試験について
午前Ⅰ試験は高度試験の全区分及び情報処理安全確保支援士の共通試験で、「IT全般の基礎知識」が問われます。
後ほど詳しく説明しますが、応用情報技術者試験の合格者など一定の条件を満たすと午前Ⅰ試験が免除されます。
① 午前Ⅰ試験の概要
試験時間 | 50分 9:30~10:20 |
出題形式 | 四肢択一 |
出題数 | 30問(各3.4点) |
合格ライン | 18問 |
4つの選択肢の中から回答を一つ選択する方式です。
下記は直近に実施された午前Ⅰ試験の抜粋です。
出題数30問に対して制限時間は50分です。
1問答えるのにかけられる時間は2分未満です。計算問題もいくつか出題されますので、時間に余裕はありません。
② 午前Ⅰ試験の傾向と対策
出題範囲
午前Ⅰ試験は、同じ日に実施されるの「応用情報技術者試験」の午前問題80問から選抜された30問で構成されます。そのため、出題範囲はテクノロジ系・マネジメント系・ストラテジ系の全分野です。
傾向
テクノロジ分野の出題が5割強を占めます。
近年の重点分野である「セキュリティ分野」からの出題が4問あります。
対策
午前Ⅰ試験の問題は、7割程度が過去問から出題されます。
そのため、試験対策としては過去問5年分を目安に暗記するまで繰り返し解くことです。
過去の試験問題はIPAのホームページから無料でダウンロードすることが出来ます。
午前Ⅰ試験については特にテキストや問題集を購入する必要はありません。
私は応用情報技術者試験過去問題の中からランダムに出題される「過去問道場」というサイトをよく利用させて頂いていました。
無料で利用できますし、スマホで見れるので通勤や昼休みなどちょっとした時間を勉強に充てられます。
間違えた問題は、解答のスクリーンショットを撮っておいて後でまとめてチェックするといいです。
③ 免除について
免除制度とは
下記のいずれかの条件を満たすと、ITストラテジスト試験の午前Ⅰ試験が免除されます。
① 応用情報技術者試験に合格
② 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験のいずれかに合格
③ 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績を取る
ITストラテジスト試験は午前Ⅰ~午後Ⅱまで4つの試験がありますが、「免除制度」を使うと午前Ⅰ試験を受けずに済みます。
IPAの発表によると、受験者の約半分以上が午前Ⅰ試験の免除者です。
午前Ⅰ試験は【共通試験】のため出題範囲が広く、対策が地味に大変です。
また、試験は朝から夕方まで長時間に及ぶので、少しでも長く体力・集中力を保つために午前Ⅰ試験の免除は欠かせないポイントです。
この中で特におすすめで筆者も実践したのが、「① 応用情報技術者試験に合格」する方法です。
①を推す理由は2点あります。
理由1
応用情報技術者試験とITストラテジスト試験は出題範囲が重なる部分が多い
理由2
応用情報技術者試験合格もゲットできる
ITストラテジスト試験よりも1段階レベルは下がるものの、応用情報技術者試験も世間一般的には十分認められる資格です。
遠回りに感じるかもしれませんが、多段階選抜方式が採用されているITストラテジスト試験で合格可能性を確実に上げるためにまずは「応用情報技術者試験」に合格し、午前Ⅰ試験の免除資格をゲットしましょう。
4. 午前Ⅱ試験について
午前Ⅱ試験では「ITストラテジストとしての基礎知識」が問われます。
① 午前Ⅱ試験の概要
試験時間 | 40分 10:50~11:30 |
出題形式 | 四肢択一 |
出題数 | 25問(100点満点) |
合格ライン | 15問(60点) |
② 午前Ⅱ試験の傾向と対策
出題範囲
午前Ⅱ試験の出題範囲は以下の通りです。
出題項目 | 小分類 | 出題レベル |
セキュリティ | ・情報セキュリティ ・情報セキュリティ管理 ・セキュリティ技術評価 ・情報セキュリティ対策 ・セキュリティ実装技術 |
3 |
システム戦略 | ・情報システム戦略 ・業務プロセス ・ソリューションビジネス ・システム活用促進・評価 |
4 |
システム企画 | ・システム化計画 ・要件定義 ・調達計画・実施 |
4 |
経営戦略マネジメント | ・経営戦略手法 ・マーケティング ・ビジネス戦略と目標・評価 ・経営管理システム |
4 |
技術戦略マネジメント | ・技術開発戦略の立案 ・技術開発計画 |
3 |
ビジネスインダストリ | ・ビジネスシステム ・エンジニアリングシステム ・eビジネス ・民生機器 ・産業機器 |
4 |
企業活動 | ・経営・組織論 ・OR・IE ・会計・財務 |
4 |
法務 | ・知的財産権 ・セキュリティ関連法規 |
3 |
午前Ⅱ試験の出題傾向
「経営戦略マネジメント」分野の出題割合が高いです(令和3年春10問出題)
対策・勉強法
午前Ⅱ試験の対策は、過去問をひたすら解き、専門用語を暗記することです。
苦手だと感じた部分のみテキストを読んで理解を深めます。比率としては過去問9割、テキスト1割のイメージで勉強を進めましょう。
私が使ったオススメのテキストを紹介しておきます。
午前Ⅱ試験の勉強でしっかりと知識が身に付けば、人によっては午後試験の対策を特別にしなくても合格することが出来ます。
午後試験で応用力が問われることを意識しながら午後Ⅱ試験の対策に取り組むのがコツです。
5. 午後Ⅰ試験について
午後Ⅰ試験では「ITストラテジストとしての専門知識」が問われます。
① 午後Ⅰ試験の概要
試験時間 | 90分 12:30~14:00 |
出題形式 | 記述式 |
出題数 | 4問から2問選び解答 |
合格ライン | 60点 |
② 午後Ⅰ試験の傾向と対策
幅広い業界から出題されますが、心配する必要はありません。
試験区分を問わずDX(デジタルトランスフォーメーション)がトレンドなので、企業がどのようなDXの取り組みをしているのか情報収集しておきましょう。
ネット記事を読む程度で十分です。
そもそもDXがよくわからないという方は、IPAの公式YouTubeチャンネルに解説動画が公開されています。
直近の出題テーマ
R3春 | ・タクシー会社におけるDX ・小売業の店舗販売とインターネット通信販売の融合 ・印刷会社の写真事業における新規ビジネスの企画 ・AIを用いた筋電義手 |
R1秋 | ・化学品メーカにおけるDXの推進 ・保険会社の新事業の企画 ・大学受験向け予備校の合併に伴うITを活用したビジネスモデルの見直し ・自動運転技術を用いた海底探査システム |
H30秋 | ・証券会社のコールセンタにおけるAIの機能を活用した新サービスの検討 ・住宅設備メーカのシステム導入 ・コンテンツ制作会社の事業展開(ブロックチェーン技術) ・AIを活用したエレベータの製品企画 |
H29秋 | ・大型機器製造業におけるIoTを活用したビジネスモデル構築 ・飲料メーカの合併に伴う物流業務の見直し ・クレジットカード会社の保有データを活用した取組み ・超小型人工衛星の事業化 |
H28秋 | ・大学の業務及び情報システムの統合 ・地域医療情報連携システム ・大型装置メーカの業務プロセス改革 ・漏水検知システムの企画 |
4つの大問から2つを選択し、設問に沿って回答していきます。
対策
午後Ⅰ試験は現代文の試験だと考えてください。
例えばブロックチェーンやAIの技術的な仕組みまで詳しく理解していなくても、設問の答えは問題文の中から読み取ることが出来ます。
以上を念頭に置いたうえで直近の過去問を時間を図って解いていきます。
解答のコツ
現代文の試験と同じです。先に設問を確認してから問題文を読みましょう。
6. 午後Ⅱ試験について
午後Ⅱ試験は、与えられたテーマに合わせて「ITストラテジストとしての専門知識や経験を文章にする力」が試されます。
① 午後Ⅱ試験の概要
試験時間 | 120分 14:30~16:30 |
出題形式 | 論述式 |
解答数 | 3問から1問を選び解答 |
合格ライン | レベルA |
② 午後Ⅱ試験の傾向と対策
直近の出題テーマ
R3春 | ・デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について ・個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整について ・異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品企画戦略について |
R1秋 | ・ディジタル技術を活用した業務プロセスによる事業課題の解決について ・ITを活用したビジネスモデル策定の支援について ・組込みシステムの製品企画における調達戦略について |
H30秋 | ・事業目標の達成を目指すIT戦略の達成について ・新しい情報技術や情報機器と業務システムを連携させた新サービスの企画について ・組込みシステムの製品企画戦略における市場分析について |
H29秋 | ・IT導入の企画における投資効果の検討について ・情報システムの目標達成の評価について ・組み込みシステムにおける事業環境条件の多様性を考慮した製品企画戦略について |
H28秋 | ・ビッグデータを活用した革新的な新サービスの提案 ・IT導入の企画における業務分析 ・IoTに対応する組み込みシステムの製品企画戦略について |
対策
ITストラテジスト試験の過去問題と解答は公表されていますが、模範解答は公開されません。
そのため、「合格する文章」がどのようなものなのか知るためにテキストを購入するしかありません。
私は収録された事例数が一番多かった下記のテキストを購入しました。
専門家による午後Ⅱ試験を想定した論文が36本収録されているので、この中の最低3本くらいに目を通してイメージを掴んでおきましょう。
情報技術に関する知識も得られますので、時間が許す限り多くの事例を読みましょう。
解答のコツ
制限時間は120分とたっぷりあるように思えますが実際はあっという間です。テーマ選びにかける時間はなるべく短くしましょう。
ちなみに、設問には必ず「あなたが携わった〇〇について答えよ」とあるのですが、実際に経験した内容を書く必要はありません。自分が携わった体で書けばOKです。
また、斬新な企画を書く必要もありません。
③ 意外な落とし穴「シャープペンシル」
社会人になると文字を書く機会がグッと減るので普段はあまり意識しないのですが、試験(特に文字をたくさん書く試験)においては適切なシャープペン選びをしないと場合によってはそれが原因で試験に落ちます。
私は何にも考えずに家にあったシャープペンを持って行って午後Ⅱ試験でとても苦労しました。
私が試験に使ったのは「HBのシャープペン」でした。
何が問題かというと「文字が薄い」んです。筆圧を要するので手も疲れます。
後から知ったのですが、小論文の試験では「Bの鉛筆かシャープペンを使うのが常識」だそうです。
一般的な話になってしまいますが、薄い文字だと採点者の方も読みづらくてきちんと採点されないこともあるそうです。
ITストラテジスト試験の問題用紙の注意事項には「BまたはHBの黒鉛筆またはシャープペンシルを使用してください」とあるので、HBのシャープペンを使ったからといって失格になるわけではないのですが、採点者や自分の手への負担を考えると「Bのシャープペンシルが最適」と言えそうです。
定番ですがドクターグリップは長時間使っても手が疲れにくいのでおすすめです。
使い慣れたシャープペンシルがいいという場合は、替え芯のみ購入でも問題ないでしょう。
事前に対応する芯の太さを確認するのを忘れずに! 芯の太さは0.5がオススメです。
7. 筆者の体験談
私はとにかくお金をかけずに合格したかったので1回で合格できるように、試験の2週間前くらいからは特に集中して学習に取り組みました。
また、無料の過去問道場を利用したり、テキストもクチコミなどを調べて吟味した上で購入しました。
解答を見てもピンとこない問題については、Youtubeの解説動画を見るという方法もオススメです。
ある程度時間とお金を掛けられる方はTACの通信講座もオススメです。
8. まとめ
以上、簡単ではありますがITストラテジスト試験の概要と勉強の進め方をご紹介しました。
ITストラテジスト試験に独学で一発合格することは決して無理ではありません。しかし、見くびると確実に落ちます。