IT系の最高峰資格と言われるITストラテジスト資格ですが、ネット上では「取得しても意味がない」という声が散見されます。
そこで本記事では、ITストラテジスト試験は取得しても意味がないのか?持っていると就職や転職に役立つのか?という疑問に、資格保有者として率直な意見をお伝えします。
また、ITストラテジスト資格を取得するメリット・デメリットをまとめたのであわせてお読みください。
1. ITストラテジストが役に立たないとされる理由
結論から言うと、ITストラテジスト資格は「無いよりはあった方がいい」レベルの資格です。
その理由を解説していきます。
理由1 独占業務が無い
「ITストラテジスト資格を取得しても意味がない」と言われてしまう理由の一つに独占業務が無いことが挙げられます。
独占業務とは、該当する資格を持っている人のみが従事可能な業務のことです。
例えば、医師や弁護士、公認会計士などは、それぞれ独占業務を持つ「業務独占資格」です。
業務独占資格は参入障壁にもなるので、就職や転職、独立の際のライバルの数が絞られます。
しかし、ITストラテジストには独占業務はありません。
IT戦略の策定や、社内のデジタル化の推進等のITストラテジスト業務を行うのに資格は必要ないため、資格保有者からは資格を持っていても意味がない、旨みが無いと言われてしまいます。
理由2 名称独占資格でない
国家資格の中には「名称独占資格」と言って、管理栄養士や社会福祉士などその資格を持つ人がけがその名称を名乗ることが出来る資格があります。
しかし、ITストラテジストは残念ながら名称独占資格ではありません。
また「ITストラテジスト」という用語はプロジェクトマネージャなどと同様に組織内の役割を表す一般的な呼称です。資格は持っていないが社内でITストラテジストの業務を行っている方が名刺に「ITストラテジスト」と記載するのは当たり前のことで、責められるいわれはないのです。
まとめ:ITストラテジスト資格は足の裏の米粒
ITストラテジスト資格に独占業務が無いこと、誰でもITストラテジストを名乗ることが出来てしまうことから、"就職や転職に役立たない資格"と言われてしまうことがあります。
ITストラテジスト資格を取っただけでは食べていけないため、"足の裏の米粒"と揶揄されることもあります。
ITストラテジストはどんな資格?
「ITストラテジスト資格(試験)」は、情報処理技術者としての知識と技能が一定以上の水準であることを経済産業省が認定する国家資格(国家試験)です。
国家資格は国の法律に基づいて各種分野における個人の能力・知識が判定され、証明される資格です。
法律によって一定の社会的地位が保証されるので、玉石混交の民間資格に比べると社会的な信用度が高く、資格としての価値も高いです。
〇国家資格とは
国家資格とは、国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事すると証明される資格。法律によって一定の社会的地位が保証されるので、社会からの信頼性は高い。
〇国家資格の分類
国家資格は、法律で設けられている規制の種類により、次のように分類できる。
A)業務独占資格
弁護士、公認会計士、司法書士のように、有資格者以外が携わることを禁じられている業務を独占的に行うことができる資格。
B)名称独占資格
栄養士、保育士など、有資格者以外はその名称を名乗ることを認められていない資格。
C)設置義務資格
特定の事業を行う際に法律で設置が義務付けられている資格。
D)技能検定
業務知識や技能などを評価するもの。
2. ITストラテジスト資格は就職に有利?
ITストラテジスト試験の難易度の記事でもお伝えした通り、学生でもITストラテジスト試験に合格することは十分に可能なのですが、就職に直結する資格ではありません。
しかし、大手企業の経営企画部やIT戦略部でDX推進に携わりたいなどの明確な目的を持ってITストラテジスト資格を取得した場合には、志望動機や入社後のビジョンを語るときのツールのひとつになるでしょう。
社員の成長を重視する企業であれば、難関資格に合格するに至った努力や自己マネジメント力を評価してもらえる可能性もあります。
ただし、大手企業への就職を希望する場合は公認会計士や弁護士の資格を持ったライバルがごろごろいるので、割と手軽に取得できるITストラテジスト資格は少し霞んでしまうかもしれません。
レアケースですが、入社後に資格を取得することで報奨金や資格手当を出す企業もありますので、そういった企業への就職を希望している場合はアピール材料になるかもしれません。
就職により役立つのはTOEIC
ITストラテジスト資格を採用条件として求める企業は筆者が調べたところ見つかりませんでしたが、採用条件に「TOEIC〇〇以上」などを設定している企業はどんどん増えています。
楽天グループ TOEIC 800
日産自動車 TOEIC 730
ファーストリテイリング TOEIC 700
Amazon TOEIC 600
日本IBM TOEIC 600
日本オラクル TOEIC 600
採用基準として課していなくても採用の際の判断材料としている企業や昇進や海外駐在の条件としている企業は数多くあります。筆者の勤める会社でも、入社後に何度かTOEIC試験を受けさせられました。
目指す就職先にもよりますが、ITストラテジスト資格を取るよりもTOEICのスコアを伸ばす方が就職には役立ちます。
いずれにしろ、就職活動においてITストラテジスト資格は無いよりもあった方がいい資格、くらいに考えておいた方がいいでしょう。
3. ITストラテジスト資格は転職に有利?
転職活動にて、企業が応募要項に必須資格を設定している場合もありますが、ITストラテジスト資格はどうなのでしょうか?また、ITストラテジスト資格保有者には、どのような企業からどのような業務内容の求人があるのでしょうか?
実際に転職サイトでITストラテジスト業務の求人を調査しました。(調査日:2022年4月13日)
企業:ITコンサルタント
職種:DXコンサルタント
応募条件:いずれか必須
■コンサルティング経験■プロジェクトマネジメント経験■事業開発経験
歓迎要件
・1つ以上の産業に関する深い業務知見、人的ネットワーク(5年以上の業務経験)
・ステイクホルダーマネジメント能力(実現・達成難易度の高いプロジェクトのマネジメント業務経験)
・ビジネスレベル以上の英語力
・高度情報処理技術者試験合格者(ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、システムアーキテクト、システム監査技術者)
年収:600万円~3000万円
企業:住宅設備メーカー
職種:幹部候補
応募条件:いずれか必須
・マクロ(VBA)、PHPによる開発経験者
・サーバやネットワーク管理の経験者
・IT関連業務の経験者
歓迎要件
・情報処理安全確保支援士
・応用情報技術者試験
・ITストラテジスト試験
・基本情報技術者試験
・ITパスポート試験
年収:400~500万円
求人内容からわかること
ITストラテジスト資格の保有を必須要件にしている企業は、ITストラテジスト業務の求人のうち1件もありませんでした。資格の有無よりも「実務経験」がITストラテジスト業務に関するすべての求人で共通して必須要件となっています。
転職は即戦力が求められますので、資格よりも経験が重視される傾向にあります。
しかし、持っていると望ましい「歓迎要件」や資格手当支給対象としてITストラテジスト資格を挙げる企業は求人全体の半数程度でした。
そのため、ITストラテジストとして一定の実務経験を有する方が、キャリアアップを目指して転職を希望する場合はITストラテジスト資格を保有していた方が有利といえそうです。
同じくらい実務経験のある2人がいて、1人は転職先の企業で役立つ資格を持っているとすれば、「実務経験+資格取得」の方が有利であることは間違いありません。
ただし、転職に資格取得は絶対ではありませんから、本当に必要なのか精査して、必要だとわかったら効率よく勉強して次につなげましょう。
4. ITストラテジスト資格取得のメリット
ITストラテジスト資格を取っても、必ず就職・転職出来るわけではないですし、間違いなくお金を稼げるといったことはありません。しかし、もちろんITストラテジスト資格を取得するメリットはあります。
幅広いIT知識が身に付く
筆者の体験談になりますが、いきなりIT部門に配属になって右も左もわからない状態の時に応用情報技術者試験とITストラテジスト試験を取得しました。
将来性がある
IT業界自体が将来性のある業界なのですが、ITストラテジストはエンジニアに比べると人数が少なくまだまだ様々な企業でデジタルトランスフォーメーションが進んでいますので、それに対応するためのITストラテジストはますます活躍の場が広がります。
ITストラテジストはIT業界の中でも将来性がある資格と言えるでしょう。
コスパが良い
ITストラテジスト試験は独学での合格も十分狙えますし、受験料も安価な上に資格の有効期間も無く維持手数料等もかからないので、自身のスキルアップにおすすめの大変コスパの良い資格です。
① トータルコストが安い
ITストラテジスト試験の受験料は7,500円です。2021年秋期試験分から受験手数料が5,700円から7,500円に値上げされたのですが、TOEICが7,810円、FP3級が8000円であることを考えると決して高い方ではありません。
また、証券アナリストのように受験資格を得るための通信講座の受講や名刺に資格名称を記載するための費用もかかりません。
▶ 独学で合格したい人にオススメのテキスト
私はこの1冊だけ購入し、IPAのホームページに掲載されている過去問を使って合格しました。
② 有効期間がない
合格したら永久的に保持できる資格もあれば、同じく国家資格の「中小企業診断士」のように数年単位で更新が必要な資格もあります。ITストラテジスト資格は有効期間も更新も必要なく、一度取得すれば永久に保持できます。
精神的なメリット
勉強して資格を取得することは、自身の精神面にもプラスに働きます。
勉強が苦手という人は、資格を取得したことで「こんな自分でも頑張れば取得できた」という自信になりますし、資格取得に関する体験談を情報発信して周りのモチベーションを挙げることが出来れば、上司や第三者から評価を受けられるかもしれません。
また、社会人になると学生時代のように努力が必ずしも成果に結びつかないことも多いです(大して仕事も出来ないのに上司に気に入られている人が出世するとか)。
しかし、資格取得は合格点という公平で客観的な基準があり、(正しい努力をすれば)頑張った分が成果として表れやすいので仕事でボロボロになった自己肯定感を高めてくれるのにも役立ちます。
報奨金
ITストラテジスト資格を取得すると報奨金や資格手当が出たり、取得が昇進の条件になっている企業もあります。一例ですがご紹介します。
中央システムサービス株式会社 報奨金:15万円
株式会社アウトソーシングテクノロジー 報奨金:56000円
株式会社アクアシステムズ 資格手当:1.5万円/月
株式会社ワールドインテック 資格手当:1.5万円/月
私の勤めている会社もそうですが、受験料の補助をしてくれる企業はかなり多くありますので、ぜひご自身の勤め先の制度を調べてみてください。
5. ITストラテジスト資格取得のデメリット
時間がかかる
程度の差こそあれ、資格を取得するためには勉強しなければいけません。
勉強時間を捻出するために夜遅くまで勉強して、翌日、仕事中に眠くなってしまうようでは本末転倒です。
資格さえあれば安心?
「資格があれば職に困らない」という考えを持つ人が一定数います。
筆者の体験談ですが、学生が資格を取得することにあまりいい顔をしない面接官も少なからずいました。
合格できるとは限らない
ITストラテジストは合格率約14パーセントの狭き門です。記述や論述式の試験もあり、豊富な業務経験があっても相性が合わないとなかなか合格できないおそれもあります。
もちろん、勉強した分知識は身に付きますが、どうしても午後Ⅱ試験の論文が書けなくて何度も落ちてしまう人もいるようです。
資格取得のために努力する過程自体にも上述したようなメリットはあるのですが、多くの時間を費やしても合格出来ずに終わってしまうと徒労感だけが残ってしまう恐れがあります。
6. まとめ
IT人材が不足している…などと言われますが、IT業界では資格の有無よりも実務経験が重視されます。
ITストラテジスト資格は持っいてると「箔が付く」くらいに考えておいた方がいいでしょう。
ここまで紹介してきて、ITストラテジスト資格に挑戦してみようかなと考えた方も多いかと思います。ITストラテジスト資格は独学での取得も可能なので、気になった方はこちらの記事も併せてお読みください。ITストラテジストは独学で合格できる?